(半蔵門だより)

メディア・コンパス

メディア・コンパス19『「音声記録」について(1)』

メディアを帯磁させることによって、音声信号を記録する磁気録音方式自体は、1888年にオバリン・スミスによって着想され、デンマークのヴエルデュール・ポールソンによってシステムとして完成されたワイヤーレコーダー「テレグラフォン」が最初である。

より扱いやすいプラスチックテープとしたのはフリッツ・マイヤーであったが、いずれも音質の向上には至らなかった。

1941年、音質も飛躍的に向上し長時間高音質の録音が可能になったのは、ドイツにおいてだったがこれは一般化されることなく、第二次世界大戦中、アドルフ・ヒットラーの長大な演説の録音や、フルトベングラー指揮によるベルリンフィルの録音に使用されて歴史的音源となったが、其の他においてはUボートの通信戦略に使われたり、ナチスドイツの防諜戦略に利用された。

この技術は、戦後アメリカに移出され1947年には3M社が磁気録音テープとして発売された。 そして1948年のLPレコードの開発と前後して、長時間録音や音質の向上もあって音声取材に使われるようになった。

しかし、現在とは違って新技術の普及には、同等の経済力と技術力が必要だったのである。
日本では、1950年ソニーが紙テープモデルを発売したのが最初である。これが民間放送の勃興と前後して、取材用の可搬式録音機デンスケを生み出していくのである。

この当時は、オープン式リールでしばしば録音に失敗することもあったが、1960年にはカートリッチ式のコンパクトカセットが発売されるに及んで、忽ち携帯型プレヤーで聞くモバイルオーディオというスタイルを生み出し、更に磁気テープからICレコーダーに発展して行った。

更にここに音声記録の文字化の技術、即ち「テープ起し」が加わることによって公的記録も私的記録も、爆発的に増大して行くことになる。それを更に後押しすることになったのが「情報公開」の傾向である。その詳細は明らかでないが、議会議事録はもとより、テレビ・映画のスーパーインポーズ、諸官庁の会議録、イベント記録、病院の診断記録、裁判記録に及ぶまで、情報の公開性の浸透に伴って少なくとも公的機関の発する情報は全て「読まれる情報」として公開されるようになった。

しかし同時に、ここで新たな問題が発生してくることになる。

音声記録も、いずれ利用されることを前提にして保存・管理されなければならない。まず、音声記録を管理するためには音声の文字化が必要である。音声の再生には録音の実時間が必要であり、実時間が必要である限り文字化による情報活用のための保存管理は避けられない。とすれば、新しく膨大な量の音声情報の文字化資料を管理する「図書館」のごときものが必要とされるのであろうか。

また、現在のテレビの多チャンネル化によるグローバルに展開する情報の交雑を考えると今日における情報集約の方途が見えない。そこから考えると少なくとも、現在の情報科学では音声情報の活用には限界があることは明らかである。

2015.2.28 引地

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