メディア・コンパス

半蔵門だより

ハンゾーモン 半藏門 江戸城内郭の城門の一。一に麹町御門ともいふ。吹上禁苑の裏に當る。名稱は門内に服部半藏正就の屋敷があったので名づく。半藏御門。

出典:「大辞典」第21巻 昭和11年5月刊 平凡社 発行者下中弥三郎

メディアコンパスは、トランスクリプション、翻訳、出版界に長年携わっている
株式会社エサップによる、昨今メディアへの考察になります。

2021年12月7日

現役脳神経外科医が見た〝コロナ騒動〟の真実

社会医療法人輝城会・沼田脳神経外科循環器科病院

脳神経外科脊髄センター長

田中 聡

 はじめに

 感染症の専門家は少ない

 ウイルスの感染経路

 PCRと「感染者」

 新型コロナウイルス患者の本当の死因

 コロナ後遺症

 ワクチンの副反応

 医療現場の実態と医療崩壊

 オンライン業務、オンデマンド講義、WEB学会

 「ウイズ・コロナ」へ

 

はじめに

 私は、2021年5月に株式会社エサップさんから『術中神経マッピング・モニタリング実践ケーススタディ』を出版させていただき、現在、群馬県の沼田脳神経外科循環器科病院に勤務する脳神経外科医です。

 エサップさんとは2008年と10年に当時世話人代表を務めていた東京脳腫瘍治療懇話会の世話人執筆により、現・東京医科大学脳神経外科教授の秋元治朗先生と私で編集した『脳腫瘍実践ケーススタディ』(第1巻、第2巻)を上梓して以来のお付き合いです。

 今回の本は脳神経外科医、臨床検査技師、臨床工学士、手術室看護師などに向けたマニュアル本的な医学書です。実は2020年度の1年間、私は諸事情により郷里神奈川の回復期リハビリテーション病院に勤務することとなり、少し時間ができたため、以前から考えていた本書の編集を実現できた次第です。

 私は3歳から19歳まで横浜で育ち、小・中・高と神奈川の学校に通学していました。大学は両親の郷里である山陰地方の鳥取大学医学部に進学し、卒業後、鳥取大学医学部脳神経外科教室に入り、最終的には1999年に東京に帰ってきました。40歳になった2000年から母校・神奈川県立湘南高校サッカー部OBが中心になったチームに入り、現在まで神奈川県で20年以上シニアサッカーをプレーしてきました。

 また、50歳ぐらいからは、中学校(横浜国立大学附属鎌倉中学校)・高校の同窓会に毎年参加するようになり、多摩地区や埼玉、北関東などの病院で平日勤務をしながら、週末は年に20回以上、神奈川を訪れるといった生活でした。

 2020年は、せっかく郷里神奈川に勤務できたのに空前のコロナ騒動のためシニアサッカーの試合は1試合も出場できず、旧友にも全く会えないという1年間でした。

 2019年に中国武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症は、2020年には実に100年ぶりのパンデミックを起こし、世界中で政治、経済、文化などに多大な影響を及ぼしました。

 日本では2020年2月に、横浜港へ入港したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」での集団感染に端を発し、2020年から21年にかけて4回もの緊急事態宣言が政府により発せられ、2021年8月のピーク時には東京都で数千人の新規感染者が発生しました。新型コロナ騒動は2020年からすべての老若男女、職種の人にこれまでの日常とは異なる生活の変化をもたらしました。21年10月から感染者は急激に減少し、11月1日(月)にはついに東京都の感染者は10人未満、日本全国でも100人未満となりました。

 これから年末年始に向けて第6波を危惧する声もありますが、2021年10月の脳神経外科学会学術総会で拝聴した、脳神経外科医である中川俊男日本医師会会長の講演では、「欧米諸国はある程度の段階でワクチン接種者数が伸び悩み、頭打ち・横ばいとなり、その後に接種済み者のブレークスルー感染が増えている。これに対して日本ではワクチン接種者の右肩上がりの増加が持続しており、3回目の接種も計画されているのでブレークスルーのリスクは少ないのではないか」というお話でした。いずれにしても、コロナ騒動がちょっと落ち着いてきた現時点で、2020年2月以降の1年9か月間の主にマスコミ・インターネットにおける報道に関して、一脳神経外科勤務医である自分の学識・臨床経験をもとに気が付いたことを、全くの私見として述べさせていただきたいと思います。

 

感染症の専門家は少ない

 そもそも医学の世界で「感染症」という分野を専門とする医学者は極めて少ないのです。大学病院でも、がんや血管障害が花形の研究分野であり、感染症を専門とする医局は極端に少ないのが現状です。特に我々脳神経外科では髄膜炎・脳炎などの中枢神経系感染症を専門とする医者はほぼ皆無です。

 一方で、肺炎の患者を診たことのない勤務医はいないでしょうし、ウイルス感染症を最も多く診ているのは開業医の先生方です。また、感染症の流行を分析・予想するのは公衆衛生学者ですが、公衆衛生の先生は患者を診ることはありません。もちろん、ウイルス学者も患者は診ません。ウイルスに詳しくても実際の治療をするわけではなく、感染症の流行に詳しい先生でも実際に患者を前にしてどうしたらよいかわからないかもしれません。結局、誰が本当に専門家であるか全くわかりません。

 私も2020年度まで所属していた帝京平成大学の紀要に新型コロナウイルス感染者に対する抗体検査に関する論文を掲載しましたので、専門家の仲間入りができたかもしれません。テレビに出演したり、インターネット上で自説を唱えたりしている先生方にとっても新型コロナウイルス感染症は初めての経験なのです。医師として初めて経験している病気のことをすべてわかっているように話されるのはどうかと思いますし、聴いている方もすべてを信用すべきではないと思います。

 

ウイルスの感染経路

 新型コロナウイルスはもっぱら「飛沫感染」か粘膜同士の「接触感染」かによりうつります。人と人の間で密にならないように「ソーシャル・ディスタンス」をとったり、飛沫を防ぐためのアクリル板を設置したりすることはそれなりに意味のあることかと思います。しかし、「換気」の必要性が強調されていることや、紙幣についたウイルスが3日間生きていたというような報道や、エレベーターのボタンを指で押さない人を多く見かけます。

 ウイルスは「核酸」という物質であり、生物ではありません。紙幣についたウイルスが3日間生きている、といった報道がありましたが、そもそも生物ではないのでウイルスが「生きている」という表現は間違いです。

 ウイルスは細胞の核に入って初めて増殖できますし、このウイルスがヒトの細胞の中で増殖している状態を「感染」と言い、人体にとって有害なタンパクを産生することによりウイルス感染症が「発症」します。換気が問題になるのはレジオネラ菌という細菌が原因で起こる「在郷軍人病」などが代表的ですが、それらは「空気感染」ということであり、「飛沫感染」や「接触感染」とは全く違います。現代の医療は「エビデンス」と呼ばれる統計学的に「有意」である証拠をもとに行われています。ウイルス感染症が「空気感染」したり、皮膚が器物に触れたりしただけで「接触感染」するというエビデンスはあるのでしょうか。ウイルス感染予防のために冬の寒い日に窓を開けて頻回に換気する必要はないと思いますし、感染者が押したボタンを次に押した人がその指をくわえたり、その指で目をこすったりするといったことさえなければ全く心配はないと思われます。

 

PCRと「感染者」

 新型コロナウイルス感染症に関しては、PCR検査で陽性となった人が「感染者」として連日報道されてきました。PCRは1983年に発明されたDNAをDNA ポリメラーゼという酵素で増幅させる方法で、現在では分子生物学的研究に必要不可欠な方法になっています。DNAというのは生物の体を構成する最小単位である「細胞」の中心にある「核」にある遺伝子の本体です。DNAから「転写」という過程でメッセンジャーRNAがつくられ、メッセンジャーRNAから「翻訳」という過程によりタンパクがつくられます。タンパクはご存知のように生物の体を中心的に構成する物質であり、生物の体の中でいろいろな化学反応を起こす酵素、ホルモン、サイトカインなどという物質もすべてタンパクです。

 以上の事柄は「セントラル・ドグマ」と言われる分子生物学の最も基本となる事項で、ウイルス感染症を考える場合に必須の知識です。

 新型コロナウイルスはRNAウイルスなので、PCRを行うためには逆転写酵素(RT)によりRNAからDNAを合成する必要があり、新型コロナウイルスに関して行われているのは正確にはRT-PCRです。RT-PCRでは理論的には一つのRNAでも増幅することが可能であり、「感度」は極めて高い検査となります。

 臨床検査の分野では、「カットオフ値」「感度」「特異度」が問題となります。このたび、出版した本のテーマである術中モニタリングも臨床検査の一つです。最も多く行われている「運動誘発電位モニタリング」の「カットオフ値」「感度」「特異度」に関して、私はこれまでに何度も学会や論文で報告してきました。

 「カットオフ値」とは、その値を境に陽性であるか陰性であるかを決める値で、ROC解析という方法で計算されます。ROCとは、Receiver Operating Characteristicの略であり、第二次大戦中に米軍が敵の戦闘機(ゼロ戦?)と鳥を区別するために開発された方法とされています。

 「感度」とは、真の陽性を陰性と誤って判定しない割合、すなわち偽陰性とならない確率です。「特異度」は、逆に真の陰性を誤って陽性と判定しない割合、すなわち偽陽性とならない確率です。

 学生時代、理系でありながら数学が最も苦手であった私ですが、今はパソコンで数値さえ入力すれば瞬時にそれらの値が計算できます。PCRの感度が高いということは、少しでも陽性の可能性がある人はほとんど陽性と判定されるということになります。

 「PCR陽性者」が「新型コロナウイルス感染者」と公表されていますが、これは誤りであると思います。「陽性者」には、「暴露者(ウイルスが気道に存在する)」、「不顕性感染者(ウイルスが細胞の中に入っているが発病していない)」、「発症者(症状がある)」の3種類があります。現在はRNA量を直接定量できるリアルタイム(定量的)RT-PCRが検査の主流になっています。

 私は現在、前述の「神経モニタリング」を最大の専門分野として、手術はもっぱら脊椎脊髄手術ばかりを病院では行っていますが、実は医者になってすぐに恩師・堀智勝先生(元鳥取大学医学部教授、元東京女子医大教授、現森山脳神経センター病院長)から悪性脳腫瘍の研究をするように命じられ、鳥取大学を卒業した1985年から2005年までの20年間は悪性脳腫瘍に対する薬物治療や手術を中心に診療・研究を行ってきました。

 特に1996年から2005年までは、脳腫瘍で最も悪性である神経膠芽腫における薬剤耐性遺伝子のリアルタイムRT-PCRを実際に自分で行っていました。その当時はまさかPCRが感染症の診断に用いられるようになるとは夢にも思いませんでした。PCRはDNAの2本鎖を1本ずつに離し、それぞれの1本鎖を増幅(「塩基」という物質を集めて核酸をつくること)して、また2本鎖に結合するというサイクルを繰り返してDNAを倍々に増幅する方法です。PCRの結果はサイクル数により大きく変わってきます。陽性・陰性の判定をするためには「カットオフ値」が必要になります。厚労省ではこの「カットオフ値」として、「PCRで陽性と判定されるサイクル数をCt値として40サイクル未満」を陽性としています。

 しかし、この「PCRの結果を陽性と判定する基準」がわからない以上、PCRを実際にやっていた者としては報道される結果が全く信用できません。PCRは前に述べましたように、「感度」が極めて高い、高すぎる検査です。「疑わしきは罰せず」の司法の原則とは真逆のことが政府により行われているとも言えます。少なくとも報道は「感染者」ではなく「陽性者」とすべきであり、PCRが保険でできるようになって民間の検査会社でもやっている以上、厚労省は陽性と判定する基準をはっきり示すことが必要だと思います。

 インフルエンザを代表とするウイルス感染症はこれまではずっと抗原抗体反応をもとに判定されてきました。抗原抗体反応はヒトのウイルスに対する免疫反応(体内に入った異物を排除する仕組み)の最も基本的なもので、ウイルスが産生するタンパクが抗原となり、これを中和するためにリンパ球という白血球がつくるタンパクが抗体です。

 2020年度に勤務していた回復期リハビリテーション病院では、特に患者とリハビリテーションスタッフの濃厚接触が避けられず、また一人感染者が出れば回復期病院の特異性によりあっという間にクラスターが発生することが予想されました。新規入院患者には2020年度初めには抗体検査を実施し、その結果を私が前述の論文に書かせていただきました。

 抗体検査は新型コロナウイルスが産生するタンパクに対する抗体が血液中に存在するか否かを調べるものであり、血液を用いるため検査を実際に行う人の感染リスクはPCR検査や抗原検査に比べて少ないと考えられます。抗体が陽性ということは、実際にウイルスが体内で増殖して、あるいはワクチンに反応して体内で新型コロナウイルスがつくるタンパクに対する抗体が産生されていることを示すものです。

 ワクチンの有効性を確認するためにも、あるいは不顕性感染者数を把握するために、今後は抗体検査の必要性が高まってくると考えられます。

 また、2020年5月13日から新型コロナウイルスの抗原検査が健康保険でできるようになりました。抗原検査はPCR検査に比べてやや感度は落ちるものの特異度はRT-PCR検査と同等とされており、鼻咽頭ぬぐい液を用いて15~30分で検査可能であり、有用性が高いものです。簡単な測定キットでどこの施設でもできますから、多くの医療機関で行われています。抗原検査の陽性者を改めてPCRで確認するという手順がずっと行われてきましたが、抗原検査陽性者がPCR陰性ということは、まずあり得ません。抗原検査はRT-PCR検査よりも優先して行うべき検査です。抗原検査が陽性になれば、新型コロナウイルスが体内で増殖して抗原タンパクを産生しているということです。

 今後は、症状のある患者に抗原検査を行うことが、新型コロナウイルス感染症の診断の中心になるべきであり、それにより将来的に新型コロナウイルス感染症がこれまでのインフルエンザと同等に扱われることになっていくと考えられます。

 

新型コロナウイルス患者の本当の死因

 新型コロナウイルス感染症は重症化すると間質性肺炎という病態になり、人工呼吸器やECMO(エクモ)といった血液を直接酸素化する装置が必要になると報道されています。実際は重症化するのは高齢者や基礎疾患のある人が多いと言われています。

 2020年の新型コロナウイルス感染症による死亡者数は、例年のインフルエンザによる死亡者数を上回るものでは決してないという話も聞かれました。ウイルスは生物ではなく、人の体内でしか存在しないものですから、インフルエンザは流行しない限りインフルエンザウイルスはほとんど世の中に存在しないということになります。新型コロナウイルス感染症の流行や、人々の徹底した感染対策により世の中にインフルエンザウイルスがほとんど存在しなくなっているわけです。新型コロナとインフルエンザの同時流行などを予想する「専門家」もいましたが、そんなことはまずあり得ないと考えています。

 ちょっと話が横道にそれましたが、実際に臨床の場では日本人の死因の第1位であるがんの患者さんの直接の死因はほとんどが感染症、それも肺炎が最多です。すべての疾患でも重症化した場合の直接死因は肺炎を代表とする感染症が多いのが実態です。

 しかしながら、新型コロナウイルス感染者で突然亡くなる方がけっこうおられます。自宅療養者が健常確認の翌日に亡くなっていたなどの報道が騒がれました。肺炎になっても急に亡くなるということは考えられませんので、これらの突然死はほとんどが深部静脈血栓症による肺塞栓が原因だと思われます。

 深部静脈血栓症は、別名エコノミークラス症候群と呼ばれ、被災地などでの車内生活でもしばしば問題になります。長時間、足を下げた状態で運動しないと下肢の静脈に血栓ができ、それが静脈系を通って心臓から肺動脈に移動して、肺動脈を閉塞します。太い肺動脈が詰まると呼吸をしても酸素が血液に行かなくなり、「突然死」ということになります。深部静脈血栓症による肺塞栓は入院患者、特に長期寝たきりの患者さんの突然死の大部分を占めていました。

 現在では手術前の患者さんには必ず下肢の超音波検査を行い、深部静脈血栓がないことを確認しており、弾性ストッキングやフットポンプによるマッサージなど術中術後の深部静脈血栓症の予防はもう20年ぐらい前からどこの病院でも常識的に行っています。

 アストラゼネカのワクチンによる副反応としても血栓症が話題になりました。新型コロナウイルス感染症自体に深部静脈血栓症を合併する可能性が高いこともあると思いますが、やはりPCR陽性で感染者とされ無症状で自宅療養される方はほとんど運動する機会がなくなりますので、深部静脈血栓症から肺塞栓を発症する可能性は高くなります。欧米の先進国で日本より死亡率が高いのも、日本の医療水準の高さのほかに欧米人の体質や食生活も関係していると思われます。

 肺塞栓はX線やCTでも診断でき、何よりも死後解剖してみればはっきりします。しかし、新型コロナウイルス感染症の死者は当初、家族にも会わせず、もちろん全く解剖もせずに火葬されてしまいましたので、肺塞栓の存在がなかなか注目されなかったといえると思います。外科医なら誰でも気が付くことだと思います。

 現在、発行されている新型コロナウイルス感染症の治療マニュアルにも血栓症の合併に関して記載はされていますが、あまり強調されていません。また、この本当の新型コロナ感染症の恐ろしい点がマスコミではほとんど報道されていません。深部静脈血栓症は抗凝固剤で容易に予防、治療できますので、治療する医師は絶対に忘れてはならない処方です。

 

コロナ後遺症

 新型コロナウイルス感染症発症後の後遺症として嗅覚障害と味覚障害が多く報道されています。新型コロナウイルスが鼻腔や口腔から感染することを考えると、嗅覚や味覚が障害されることは理解しやすいと思います。

 脳外科的に解説しますと、嗅覚は臭いの粒子が鼻粘膜の最上部に付着し、そこから電気信号が嗅神経を介して前頭葉に伝わります。嗅覚は最も障害されやすい感覚で、頭を強く打った場合(頭部外傷)や開頭手術の際によくやられることが知られていました。外傷の場合はやむを得ませんが、開頭手術に関して昔は頭の手術をした患者さんの多くが手術した側の嗅覚がなくなっていました。これは前頭葉を持ち上げる手術操作の時に嗅神経が切れてしまっていたからです。現在では嗅神経を損傷しないように前頭葉底部の処理を行うようになっています。

 味覚に関しては、舌で味わった感覚が電気信号に変換され、顔面神経や舌咽神経を伝わって脳幹というところから脳に伝わります。顔面神経や舌咽神経、脳幹はいずれも頭の中の深いところにあり、嗅覚のように外傷や手術でやられることはあまりありません。嗅神経は一応左右2本ありますが、味覚に関しては顔面神経と舌咽神経が左右計4本ありますから、頭部外傷や脳外科の手術の際にも味覚が完全に失われるということはあまりありません。

 私の受け持ち患者さんを含めて知人5人ぐらいが新型コロナウイルスに感染しましたが、このような後遺症を残している人は一人もいません。ちなみに昨年の回復期リハビリテーション病院では私の受け持ち患者で2名の方が新型コロナウイルスに感染しましたが、2名とも他院で治療し全快して後遺症もなく戻ってこられました。どうも報道されている後遺症はやはり誇張されているようにも思えます。術後の患者さんが医者には「良くなった」と言っていても、話しやすい看護師や理学療法士・作業療法士などにはいろいろな訴えをすることはよくあることです。マスコミの取材で誘導尋問のような形でつい大げさに言ってしまうことがあるのではないでしょうか。患者さんの訴えを「精神的なもの」などと考えてしまうのは我々にとっては決して許されないことですが、実際、そういうふうに思わざるを得ない症状も臨床の現場ではよく聞かれます。新型コロナウイルス感染症の発症時には嗅覚・味覚障害の訴えが多く、これはインフルエンザと大きく異なる点です。初発症状が後遺症として残る可能性はもちろんあると思いますから、今後の調査・検討が必要であると思います。

 

ワクチンの副反応

 新型コロナウイルスワクチンはすでに2回接種者が日本国民の70%を超えて、最初に述べましたように、さらに接種者の増加が続いています。やはり、欧米に比べて集団行動が得意な日本人はすすめられれば素直にワクチンを打つ人が多いと考えられます。ワクチンに関しても特にインターネットを通じて様々な副反応が噂されました。「副反応」という言葉は私も初めて聞きました。薬剤の場合は「副作用」ですが、ワクチンの場合は「副反応」と言うそうです。長期的な副反応がわからないなどと言われ、若年者接種の必要性、妥当性が問題になりました。しかし、ファイザー社製に代表されるメッセンジャーRNAワクチンはヒトの体内で抗原となる新型コロナウイルスタンパクを産生したのちに速やかに消滅します。アナフィラキシーなどの急性期副反応はある一定の割合での発生は避けられませんが、メッセンジャーRNAがすぐに体内から消滅する以上、長期的な、特に遺伝学的な副反応など起こるはずがありません。

 さらに急性期の安全性が高いワクチンが開発され、世界中の人々が幼少期に接種するようになれば、天然痘のように世界中から新型コロナウイルス感染症を完全に撲滅することも夢ではありません。しかし、そこまで撲滅しなくてはならない病気であるかどうかは問題ですが。

 

医療現場の実態と医療崩壊

 2021年の春から夏にかけては感染者、重症者の急増による医療崩壊の危機が叫ばれました。実態はどうだったのでしょうか。2020年の初め頃は脳神経外科でも「予定手術が組めなくなった」という話をよく聞きましたし、実際に新型コロナ患者を早期から受け入れてきた大学病院の先生から、「予定手術がほとんどできなくなった」、「コロナ病棟の看護師はほとんど皆、感染している」というような話も聞いていました。私は2020年度、回復期リハビリテーション病院勤務でしたので、手術は行わなかったため影響はありませんでした。実は他の急性期病院で新規に脳外科を立ち上げるお話もあったのですが、もしそこに赴任していてもほとんど手術はできなかったことでしょう。

 2021年の5月から現在の沼田脳神経外科循環器科病院に入職しました。群馬県北部には脊椎脊髄手術を行う施設がなかったため、赴任してすぐからずっと週1件を上回るペースで手術を行っています。新型コロナの影響は現在までほとんどなかったと言えます。また、都内などの大学、病院の脳外科の先生方のお話でも今年は順調に手術ができていると聞いています。

 確かに新型コロナの患者を受け入れるには他のスペースと全く隔離された場所、人員の確保が必要になり、どの病院も最初はたいへんでした。2021年8月まではコロナ病床の不足とがんなどの生命にかかわる疾患の治療に及ぼす影響などから、医療崩壊が危惧されるという報道が多くされました。これに対して政府はコロナ病床設置病院に十分な補償を行うことにより、順調にコロナ病床を増やしてきました。無症候性感染者や軽症者に関しては、前述のような血栓予防処方や次々に報道されているような経口治療薬が処方できるようになれば、これまでのインフルエンザ患者が決して入院することがなかったように、別に入院や長期間の隔離をする必要はなくなります。看護職など必要な人員確保にはまだ厳しい情勢ではありますが、少なくとも現在の日本においては医療崩壊などということはあり得ないと思いますので、安心いただいてけっこうかと思います。

 

オンライン業務、オンデマンド講義、WEB学会

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、世界中の人が悪い影響を受けたと思います。しかし、ポジティブ思考の私としてはコロナになってからよかったことも考えてみました。

 まず、私自身、1年半にわたり毎日起床時に体温を測定していますが、この間1回も37度以上になりませんでした。決して健康的な生活をしているとは思えませんが、全く風邪もひいていません。手術もサッカーもない1年間でも体重増加はわずか1kgでした。この1kgを削るのに半年間苦労していますが。

 病院でも、2020年度には回復期リハビリテーション病院とはいえ、けっこう重症の患者も多く受け持っていましたが、肺炎等の感染症も比較的少なかったと思います。これまでには腰の手術ではどうしてもある一定の割合で術後創感染が発生していました。2021年は現在の病院で半年間に30件ぐらい脊髄手術を行いましたが、これまでに術後感染は1件もありません。これらは、自分も職場も社会全体でも感染対策が徹底している結果だと考えられます。

 また、満員電車、通勤ラッシュを避けるために企業ではオンライン・在宅勤務が増えていると聞いています。2020年度まで医療系学生に講義をしていた帝京平成大学では、オンデマンドの講義を経験しました。これはやはり、完全に一方通行であり、学生の顔も全く見られませんでしたので講義をしたとは思えませんでした。

 私の本業は外来の一部を除いてほとんどオンラインではできませんが、私の大好きな学会はオンライン・WEB開催から現地参加とWEB参加のハイブリッド開催が当たり前になっています。病院で外来、手術などをしながらオンラインで学会の発表、聴講したり座長を務めたりできるなど2年前には想像もしなかったことが実現しています。また、参加できなかったり自分の発表と重なったりして聴けなかった演題が、自分の都合のいい時間にオンデマンドで聴講できることにもなっています。やはり研究者にとって学会は晴れの舞台であり、ちょっと不謹慎ですがお祭りのようなことでもありますから、大好きな夜の部も含めた現地参加に越したことはありませんが、これらのハイブリッド形式やオンデマンド配信はコロナ終息後も続くのではないかと思っています。

 

「ウイズ・コロナ」へ

 私は科学者であると自分では思っており、無神論者ですが、どうもこのコロナ禍は、現代人の身勝手な行動に対して神の鉄槌が下されたように感じてなりません。渋谷の街で暴れる若者や夜の繁華街をさまよう中高年者が家庭に帰ったことは前述したコロナ禍でのよかったことに加えられるかと思います。平日の昼間に学生の子供や旦那が家にいて、3食めんどうをみないといけなくなった主婦の方はたいへんだったと思いますが。コロナ禍をよく戦争に例える人もいますが、どちらかというと自然災害に近いのではないかと思います。自然破壊や温暖化により地球が怒ったのではないかと非科学的に考えてしまいます。

 ワクチンと治療薬の開発により、世界的にも新型コロナウイルス感染症はインフルエンザのような一疾患になり、これがウイズ・コロナということになるのでしょうか。ただ、嗅覚障害や味覚障害が起こることが多いとすれば、やはり「ただの風邪」とは言えず、インフルエンザよりはかなり厄介な風邪だと思います。

 科学とITの力で、人類はこの未曽有の事態を克服しつつあると思います。特に日本はその国民性からマスクの装着率、ワクチンの接種率も世界でトップクラスとなり、いち早くコロナ禍から脱却できるのではないかと思います。100年後とは言わず、もっと近い将来にも今回のコロナ禍のような事態が起こることもあり得ると思います。今回の教訓を生かして、次世代の発展につなげることが現代人の務めであると考えています。

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