(半蔵門だより)

メディア・コンパス

メディア・コンパス5『日本鉄道旅行地図帳』

正寸正尺『日本鉄道旅行地図帳 』 新潮社刊

21世紀に入って9年、出版が長期低落傾向に陥ってから15年余になるが、ひさびさにこれは見るべきものかもしれない。

2008年5月、新潮社はJTBから「旅」を買って以来かと思われる旅企画を売り出した。

この「日本鉄道旅行地図帳」は現在、累計147万部を超えたそうである。内容は正寸縮尺の地図上に鉄道地図の全線全駅を乗せたこと、加えて廃線と新線予定を乗せたことで、正寸地図上に鉄道の歴史を記したことが確かな「大地」の表現の一つとなったようである。

例えば第1巻の「北海道」では、この鉄道の廃線地図がそのまま北海道開拓史の風景を見るようである。途中までしか工事のできなかった鉄道、完成運用してから廃線となった鉄道など、鉄道マニアに限らず、知るものが見れば身にそくそくたるデータ集である。

筆者は東北の出身であるが、根釧原野などの開拓には近親者が多く関わっている。その一人から来た手紙の住所は、確か最後が「原野一番線12番地」であり、それは根釧原野に引かれたいく筋かの線のような道路を示しているようであった。そこにどのような家が建っていたかは想像に余りある。地図とは、そのようなものを包含しているのであろう。

この地図では、釧路を中心にしてみると海岸を走る根室本線があり、釧路から知床斜里でオホーツク海に出て海岸沿いに網走に出る訓網本線の線路が一本あるだけである。網走に向かって右は根室支庁、左は根室支庁から上川支庁にわたる茫漠たる原野のなかに、鉄道らしいものは動いていない。

しかし、やはり廃線、未成線図を見ると標茶から中標津、釧路から北見相生を通って美唄、白糠から北進を通って足寄と、いく筋か通っていたのである。開拓の展望は、それらの企図とどのように関わっていたのであろうか。それをうかがわせるのが、原風景である。

現在は、どのように見えるであろうか。根釧原野に埋もれてしまった鉄道は、どのような足跡をその風景の中に刻んでいるであろうか。見ていると、なかなか興味の尽きない地図である。

(2009年10月16日 引地正)

pagetop